小学校/将来の夢(3)

■「小学校/将来の夢(3)」

盲腸から退院し、小学校最後の年を迎える。
目標は1つ。「クロスカントリースキー1位」
とはいえ、1週間強入院していたせいか、
体力が戻らない。
「とにかく運動選手は走る事が必要」
と、猪木さんが力説していた。
朝早く登校しグランドを走り、
夕方は河川敷を走る。
それと、スキーの大会まで
全ての運動に全力を注ぐ事にした。

5月、相撲/市内大会
(昨年/個人戦、団体戦共に2回戦敗退)
大会に向け、学校で1番相撲が強くでかい
(170cm)幼馴染や中2で怪力でもある
兄と練習。
個人戦は順調に3連勝するも、3回戦と
準々決勝が連戦となり息切れ、ベスト8。
団体は幼馴染と燃えに燃え、準優勝。

6月、野球は地方予選で敗退
(遊撃/2番手投手/3番)
3年連続県大会出場を逃し、監督に
毒つかれた。
毎日、家の庭で友達と三角野球、
ファミコンブームで友達が野球を
やめても一人家の壁とキャッチボール、
球拾い声出し雑用から始まったスポ少、
県大会、地方大会、米沢代表として
新潟遠征と、皆んなで頑張ってきたのに、
あまりにも残念な大人の言葉であり
エゲツナイ終焉だった。
遠ざかりつつあった野球が、
私の中で、完全に別世界になった。

夏休み、今年は野球の試合がない。
気持ちを陸上に切り替える。
9月に行われる陸上/市内大会に向け
個人練習開始。 昨年は1000m出場。
スタンドで大好きな子と1個上で
超気になってた子が応援してくれる。
いいところ見せなきゃ。
スタートから爆走。断トツトップも、
途中で自滅8位。練習不足もあった。
というワケで、この夏は毎日タイムを
計った。3分40から、順調にタイムも
伸び、試合2日前の学校練習では
「1km3分09秒記録」
これは大会記録と同タイム。
タイム計測した先生が1位を断言。
勿論、私も確信。
試合当日。片思いのあの子も
スタンド観戦。やべぇ、熱くなってきた。
スタートのピストルが響く。
リールを引きちぎった犬の様に
駆け出し、一気にトップに立つ。
後続をどんどん引き離し、
断トツトップ…も、
600mくらいで失速。
またもや同じ轍を踏む。
3分27秒、平凡な記録で5位。
優勝者は3分20秒。例年以下の
タイムだ。悔しい以上に、
恥ずかしい気持ちでスタンドへ戻る。
先生方には誉められたが、
鋭い視線を感じる。そこには母。
スタンドの裏通路で、痛烈に叱られた。
自分でも、馬鹿すぎる自分に腹がたった。
が、このミスを校内マラソンでも犯す。
「2度あることは3度ある…」
練習の意味を失くすくらい、
心に落ち着きがない。
ただ、助言してくれる存在はいなかった。
ずっと我流。
答えを提示する大人達は、
後出しじゃんけん…である。
じゃんけんする事に、意味はある。

12月バスケのスポ少に誘われ
市内大会出場。
初バスケの試合は連勝街道。
左45度から切り込むレイアップが
決まりまくる。結果、準優勝。
思えば、母は大学のバスケ部
(日本女子体育大)
もしかしたら、野球よりバスケが
合っていたのかもしれない。

この年は、我流なりにチャレンジ
してきた。
以前より少し自信がついたのか、
毎日が楽しかった。
冬休みを前にしたある日、
米沢にも雪が降る。
魂の奥底で閉じていた火種を
じんわり感じた。
自然と安全地帯のメロディ達が
私の中で歌い出し、決まって、
好きなあの子が心に現れる。
そう、状態が良くなってきた印だ。
勉学は今ひとつだったが、
日々が父に伝わったのか、
冬休み前、声がかかる。
「冬休み、中学のスキー部練習に、
お前も参加するか?」
私は、即、頷く。
…目は、決して合わせず…。
血管の中、目覚めた血が蠢く(うごめく)
内震える何かが、叫びそうだ。
衝動が抑え切れず
カセットテープをセットする。
「ワインレッドの心」
熟した赤が、肉体に宿る。
「よし、来た。よし来た。
俺のシーズンが来た!」