■岸哲蔵リアル・ストーリー「21歳」
机の中を整理していると、色あせたメモ帳が…
顔を出す。
毎日、毎日持ち歩いたものは、一瞬見ただけで、
懐かしさにかられ、手にとってしまう。
シッポを振った子犬を包み込みたくなるように…
…メモ帳を開く…
1994年…21歳の頃のものかぁ…
(21歳の俺…冴えてないなぁ~)
当時のスケジュールや仕事内容、待ち合わせの、
時間や住所、電話番号…
そして、そこまでの、アクセス等も、
細かく記載されていた。
そうか、そうか。
あの時代は、ポケベル全盛期の頃で、
勿論、僕自身、携帯電話など、持ってない頃だ。
だからこそ、待ち合わせが大切で、
「時間」も「場所」も、しっかりと記入して、
遅れないように、5分前を目指し、
電車時間も自己流で調べたものだ。
…綴りゆくページには…
なかなかなドラマも描かれていて…
デートでどの映画を観ればいいか?
その後、パスタ?で、ケーキ?…とか
吉祥寺か新宿か?はたまた、渋谷?
などと、リサーチしたメモまで、
結構、細かく書かれていた。
そう、そう、そう!!
メモの対象人物は、あの子…
賢くて、可愛いけど、ワガママで自由奔放な女子高生(高3)
口ぐせは…「うざぁ」「マジ?」「かっちーん」
ストレイキャッツが好きで、
カラオケでは、絶対「世界中の誰より、きっと」
を、一緒に歌わされた
(中山美穂)
この子は、立派な家に住んでいて、
進学校に通い、ぱっと見…ちゃんとした子なのに、
口煩い母親や、受験勉強から逃げ出し、
捨て猫のように、
ひょこっと顔を出す…子だった。
しかも、ベランダから…
時にはチュウハイ持参し…
はて?果て?今は、どんな人物になったことやら…
ほぉ~、映画は「ミセスダウト」と「依頼人」見たんだ!
で、「K-1」(第2回大会)のチケット取れず…なども…
この時期は、もう事務所も辞めた頃で、自作の曲を創る
スタンスや色に、迷っていた…
と言うか、
何も解らず、鼻歌を録音し、
デュオを一時期組んだ、
友人にもらった、
エレキギターを、
ちょぼちょぼ弾き、曲にしていた。
歌詞は、俺自身、強い思想もなく、文学青年ではないので、
普段生活で感じた事を、
とにかく「メモ」
していた。
が、やはりイマイチで、
意味の繋がらない理屈を、ただダラダラと書かれていた。
朝からイスとりゲームかよ…
鮨詰めパックに押し込まれて、このまま生きてくのか…
俺はつり革にしがみついた、飛べない鳥…
いや、海から丘という夢にだまされた魚…
もー、体中、色をなくし、
潮も忘れ、ひっからびた干物なんだ!…
あ~楽しいことは…
あ~なんかないかな?…
あ~死にかけた若さ…
バカなフリも忘れたくらい、乾いてる…
(干物ドリーマー)
面白い内容と角度だし、
反発具合いも良いが、
なんか薄い!
自身という素材や、時や、出会い、触れ合いというものに対して、
しっかりと東京生活と「向き合えてない」…
と、強く感じる。
で、….心に突き刺さった詩を、見つけた。
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白と黒の間には 、
どれだけの灰色が つまっているのだろう…
人は汚れいく生き物と言うのなら、
僕はどこまで 染められたのだろう…
どんな風に… どんな色に…
地球上の原型が、
人々によって変わってきたと言うのなら…
果たしてこの星の原色を 、僕はじかに見たことがあるのだろうか…
今日の空はクラウディー…
燃えるような赤の陽も、
かといって、
泣き出しそうな天の声も、聞こえない。
それなのに、突然、心を切り裂くように、
怒号のようなサイレンが走り去るんだ。
ねぇ、誰か、誰か教えてほしい。
白と黒の間には どれだけの灰色がつまっているのかを…
そして、僕の色を、見えたままでいい…
教えてほしい。
(…21歳の頃の詩…)
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21歳…
港で仕事するようになったのは、この頃かな?
それとも、その少し前かな?
(港街)
何故か、あの頃は、人間関係も希薄で、
実家にも、何年もの間より付かなかった。
些細な事でも、苛立ち、
感情と現実が、全く交わりあってない時期だった。
でも、そんな時期だからこそ、水とも油とも知れない、
掴めない何かを、表せていたのかもしれない。
真っ直ぐは、素晴らしいが、
はたして、素敵か?
アートには、屈折や淀みや、
不安定さの中にこそ、
「真」があるものかもしれない。
今一度、この身を見つめたい。
そして、今…
もう一度、己に問いたい。
「お前は、何色なのだ!」
と…
貴方は、貴女は、何色ですか?