■「自由と箱」
21世紀跨ぐ前、仲良くしてくれたミャンマー人がいた。
名はタウ。
歳は私より10個上、西郷どんを柔らかくした様な顔で、
同じ空気を吸うだけで和んでしまう。
在住5年ながら、日本語も堪能。
よく話込んだものだ。
しかし、その円な瞳の奥には、
立ち入る事の出来ない箱があった。
「タウさん。日本で何故働いているの?」
「甥っ子や姪っ子達の世代が日本みたいに自由になれるように働いている」
一瞬、ボカンとしていると、彼は今まで私には見せなかった大切な箱を開けた。
「ミャンマーは軍事政権。自由を求め活動しているスーチーさんを軟禁している。
我々はミャンマーの自由を勝ち取る為、お金を作っている」
静かに語るその唇には、揺るぎない意思が連動していた。
聞けば、兄弟仲間はアメリカ、イギリス、日本へ渡り外貨を稼ぐ。
自分の生活費は最小限に我慢し、
故郷の家族へは勿論、本国の自由を勝ち取るべく、
送金しているのだった。
彼はお酒を口にしない。
その歓びを勝ち取るまで呑まない。
唯一の趣味はドイツ製のオーディオから好きな歌を聴く事。
「岸さぁん。もし、もし自由を勝ち取って、ミャンマーが日本みたいになったらね、
コーヒー屋さんやりたい。その時、活躍するのが、このオーディオねぇ」
ここのところ、報道は哀しきミャンマーを映す。
今、タウさんはどうしているのだろうか?
タウさんの本当に憧れた箱が報われる事を祈る。