■岸哲蔵リアル・ストーリー「1981年の夏」
海、山、川…
心ひかれる自然風景は、幾つもありますが、
自分がこの中で一番ひかれるのは、
「海」
それは、やはり憧れ!
と、言うのも、自分が生まれ育った町は、山形県米沢市…
市内の東西南北、2000mクラスの山に囲まれた「盆地」
位置的には、日本海や太平洋にも遠く、
海水浴に行けるのも、年に1度。
だから、子供の頃は、花火大会以上に海水浴への思いが強く、
日程が決まると、毎年必ず「テルテル坊主」を作ったものです。
家が毎年行くのは、新潟県村上市にある「瀬波」
浅瀬で、波も穏やかですが、車で3時間半位かかります。
….1981年の海水浴….
何故、この年の海水浴を覚えているかというと、
「家族みんな」で行く、久しぶりの海水浴だったから…
前年は母がバスケの試合でアキレス腱を切り、その前の3年間程は、
これまた母の椎間板ヘルニアでの入退院で、親戚との海水浴…
…当日…
起きるのは3時半。
子供以上に興奮気味の親父は、ライトバンのアクセルふかし、
オフクロは、オニギリを握り、
兄貴は普段通り、便所で朝読書、
我輩は、近鉄帽子を被り、はしゃぐ….
(近鉄の帽子)
愛犬ポリーに、多めにエサと水をやり、
午前4時…「出発」…
ライトバンの後部座席を折りたたみ、薄手のシーツを敷き、
僕と兄貴はゴロ寝しながら、ライトをつけた車は、
静かな町を出る。
犬の声ひとつ聞こえない町角を曲がり、
街頭に群がる虫達をすり抜け、
時々、新聞配達のバイクとすれ違い、
気がつけば、国道に沿い、知らない町へ….
青白き空が、少しずつ色づく頃、親父は得意そうに裏道に入り、
くねりくねる山道を、すれ違う車もない中、
更に、くねりくねる。
過ぎ去りし風景には、若葉の緑…
窓を開ければ、
その生き生きとした生命の香りが気持ちいい。
太陽の陽の彩度が増すと共に、セミの鳴き声も手を上げ、
午前5時….気がつけば、
ライトバンは「セミのシャワー」の中を、
走っていた。
…山形県と新潟県の県境はまさに「自然界ど真ん中」
冬は、猛吹雪で、視界がなくなる程で、積雪は3mに迫る。
そして、この大自然の中を巨大な川が…河が流れる。
荒川!
この荒川は、民家が全くなくなった時、突如として右手に
現れる。
子供心に…いや、大人ですら、この「淀み」のある河色には、
不気味さを覚え、深いであろう、この河を、さりげなく見てしまう。
僕は、好奇心と恐怖の狭間に呼吸をし、気がつけば、
この河のもつリアルに吸い寄せられていた。
と、口数の少ない親父が得意げに言う。
「この河には、10m以上の大蛇が何匹もいて、
人間など近づいたら、ひと呑み!
ある時なんか、小船ごと、呑み込まれたそうだ!」…と…
「ザワァ~…..」
震える、我輩!!
…勿論、これは親父っぱげのジョークだったと後に知るが、
それを真に受けるだけの淀み具合いを、
この河はもっていました。
後に知った事実として、この荒川には、1m級の魚が生息し、
目撃されている。。。
走る道もまた、リアルな面をもつ。
この不気味な荒川に、接近したり離れたり、
ガケ防止のネットが貼られた山あいをすり抜け、
むき出しの岩をも目にする。
壊れたままのガードレール、クモの巣のはった電話ボックス、
水がひたすら垂れる山肌を目にしながら、
進む。
そして、時々、10トンクラスのトラックが、轟音と共に、
対向車として、風圧をかけ、通りすぎる。
本当、まるで、海外の映画のワンシーンのような、
ダイナミックな景色と、風合い。
そして、ちょっと標高が上がると、煙る。
そう、
この地域は日本でも指折りな霧のたつ場で、
戦争の時は、空から見えない地形をかわれ、
ここに軍事産業の大工場を建てたのだ。
…そんな時にかぎって、何かと「近い」僕は、
おしっこをしたくなる….
我慢出来ず、路肩に車を止め、雑木林の方で立ちションを
しようとすると、
「マムシ注意」と「クマ注意」…更に「スズメ蜂」注意の
看板…
さっきの大蛇の事もあり、ビビりながらも、
「猪木ボンバイエ、猪木ボンバイエ….」と
アントニオ猪木の入場テーマを歌いながら、パンツをさげる。
が、大事な時にかぎり、おしょうすいは蛇口を閉め、
俺のピストルは弾詰まり….
こんな時、こんな時、背後からいきなり襲われる映画を
見た記憶が….
的を外しながらも?何とか引き鉄をひき、手を洗わず、
ライトバンへ逃げ帰った。。。
…危険地帯…を越え、ようやく民家が現れ、気がつけば
町らしき町へ。
そして、ライトバンは公園で止まる。
シートを敷いて、みんなで座り、母がオニギリを並べる。
今じゃ、日本列島の隅から隅までコンビニ社会だけど、
まだ、この80年代前期は、ピクニックは、
母ちゃんのお手製が、当たり前でした。。。
オニギリを一気にほおばる我輩….「梅干し…」
アラレちゃんのスッパマンのモノマネで、悔しさを打ち消す….
兄貴は自然に、何の欲ももたずパクリ…
「スジコ!!」
クソッ…今度こそはとかじりつく我輩…「また….梅干し!」
またまた自然に食べる兄貴…
「ウニ!!」
今も、この二人には、これ位の「運気の差」が….
常に….つきまとう。
…午前7時…
新潟の町を、車が走る。
と、
聴こえてくるのは、松山千春…
まだ80年前期の車には、カーステレオがなく、
オフクロが小さいタイプのラジカセを準備していた。
流れるのは松山千春のアルバム「青春」で、我輩としては、
「青春2」という曲が好きだったなぁ~。
他に、五輪真弓、井上陽水、フリオ…とか…
知らない町の景色は新鮮で、車の窓の景色をつぶさに
観ていると….
「海水浴場まで5キロ」の標示が!
車のギアをトップからハイトップに切りかえ、
アクセル踏み込む親父。
ガムをさっきより小刻みに噛む母ちゃん。
窓を少しあけ、潮の香りを確かめる兄貴。
近鉄帽子を深く被る僕…
鼻の奥に感じた海の香りに誘われたかのように、
丘を越え、橋を渡り、行商のおばさんを横目に、
海の町へ!
…「海まで5分の看板」…
見渡せば、他県ナンバーばかりで、
飛び立つ鳥はカモメで、
異次元の空間に吸い込まれそうだ。
少し込み合う細い道をゆったり、
でも、ブレズ強く進む
ライトバン!
そして目の前に….
「テトラポットと戯れる波」が、あった!!
パーキングに止める。
短パンの下には、海パンだ!
僕の心は、魚。
青い海に染まりたい、魚。
水筒もって、ゴザ担いで、水中メガネ首にかけ、
走る僕。
「走るな!!」
と叫ぶ、鬼ババも、今日は全く怖くない。
一気に飛び込む俺!!
…帰りのライトバン…
魚はとっくの昔に、干物で、
ヒリヒリ日焼けした傷みも忘れ、眠る。
煙草を止めていた親父が、久々にいっぷく。
今日だけは、隣の怖い人も、目じりが垂れてる。
僕は夢みていた。
大蛇を倒し、海へ向かう、ストーリーを….
…あれから、33年でしょうか。
今年も、海へ行きます。
じゃないと、身体も心も枯れるから…
葉山かな?逗子かな?
あっ、これから、今年の海を夢見なきゃ….
皆さんに、思い出の海水浴はありますか?
何処の、海が、好きですか?