…1983年、夏休み…
まだ、「昭和」の香りが残る、あの頃のお話である…
兄貴こと実験君の日々は止まらない。
疑問は解決するもので、その好奇心には雲ひとつない。
そして、その過程….
彼には、ほどほどがない。
…その前に、僕の町、「米沢市」は雪国なのだが、
「盆地」で暑く、お隣、山形市では、最近まで、
「最高気温」の日本記録をもってたくらいの土地なのだ。
この夏休みも「猛暑」で、太陽が西の空へ帰っていっても、
蒸し暑い感は否めず、仕事で疲れたオヤジっぱげは、
ビールと枝豆の狭間に、夢心地へと向かう…
当時、ジャズダンスの先生だった母ちゃんも、
ダンスブームで(映画「フラッシュ・ダンス」は世界的ヒット)、
1日何レッスンもこなし、くたくた。
冷凍庫から氷をつまみ、麦茶にいれ、
「この一杯の為に生きているよねぇ!!」
と、
極楽気分に飲んでKnockOut!!
俺ときたら、
野球の「ナイター中継」で中畑清にかじりつくも、
ここってとこで、
「誠に申し訳ございませんが、一部の地域では・・・」
チョメチョメって奴で、野球の進行を無視し、野球中継が終わる。
(当時、一部の地域には必ず山形県内が入り、延長中継見れず。)
不完全燃焼~~~~だぁー!!
あ~~、はかなき山形県民よぉ….
無理やりフトンを被るも、蒸し蒸しする熱帯夜の前では、
羊自体が非通知?
…眠れない…
夜中の2時頃…
「ゴソゴソ、ゴソゴソ。ごそごそ、ごそごそ…」
音がする。
寝つけない鼓膜には、どんな音でも不法に侵入!!
気になって仕方のない僕は、怯える気持ちと好奇心のサンドウィッチのまま、
その音の主を探し、階段を一歩一歩、
足音殺しながら….
心の中では、いつ何時でもジェイソンが表れても大丈夫なように、
「十字架をイメージ」….し….。
ん、キッチンだ!
もしかして、ジェイソンが家族を次々にとらえ、ミンチにし、
メンチカツ風にアレンジしているかも…しれない。
侮れない!! 侮れないよ、哲ちゃん….。
キッチンの奥の方から、うっすらとライトがもれる。
よし、一気に突入だ!
ジーパン刑事のように飛びげりか?
140センチのとってもクリリンな
五分がりの僕には厳しい…
「退散だ。」
…今日だけは許してやるぜ!
が、ジェイソン、いついつの日か決着と書いて、けじめつけたるからなぁ….
と、その時!
「がらがら」
不意に、目の前にある、キッチンの扉が横にレール式に開く!!
…一貫の終わり??
心の奥に浮かぶ、大好きなYちゃん….
さいさいさいなら….後生で….また….逢えるよ。。。
「哲ちゃん?」
そぉ、その声はジェイソン、、、ではなく、
兄貴こと実験君だ!
「 …何、やってるの? 」
という僕の声を、シッ!と、人差し指で制し、
「 ちょっと 」
と、クリクリクリリンな我が輩を、薄暗いキッチンに招き入れ、
ハンド用の懐中電灯のスイッチを入れる。
「お父さんとお母さんには内緒…なぁ!」
西川きよしばりのギョロ目で、ルールを押し付ける実験君。
我が輩は、わかったと、あごで猪木みたいにうなずく。
そして、実験君は、そんな我が輩を尻目に、
摩訶不思議な現場を…示した。
「おっー!」
声にならない程の驚き!
冷静に、今、振り返れば、
空気を吸い込む感じの、驚きだった。
なんと、ハエが1匹、テーブルの上に横たわっている。
実験君は、転がるハエのお腹をさわり、「よしっ」と。
実験君は説明する!
このハエは、網で生け捕りにしたもので、
それを、丁寧にビニール袋に入れ、ビニールの空気を完全に抜き、
後はビニール袋に空気が入らないように縛り、
午後から冷凍庫に入れ、凍らせたのだ!
って事は….ジャズダンスのレッスンを終え、
麦茶に氷を入れ、
「この一杯の為に生きているよねぇ!!」って言って、
母ちゃんが使った氷入れの隣に、
このハエのアイスが眠っていたのだ!
俺は心のビデオテープを更に巻戻し、「再生」する。
と、実験君は、母ちゃんが、この「一杯の為に….」って、その場面
軽く、微笑んでいた…..
奴は、天使のマスクを被った….やはり、ジェイソン??
話を戻すと、この凍ったハエは、
恐らく仮死状態で、細胞もまだ生きていると兄は説明。
で、
実験君の狙いは、仮死状態のハエは、解凍後に、生き返るのか??
で….
何故、兄はこの実験を実行したのかというと、
当時、中国が猿を使い、これと同じ実験をしていたそうだ。
(最終的には、脳をはじめとする移植実験の一環….)
彼は、ハエの状態を確認すると、
これまた母ちゃん愛用のドライアーを使い、
微風で温める。
….ん….
ハエの身体が、徐々に色付きだし、
「ぶるっ!」とハエが、震えたかと思うと、一気に動く!!
羽根を動かせ、「飛行姿勢」に入る?
1歩歩き、1歩歩き、ぱたっと、突っ伏する。
が、
また何かの力を振り絞り、歩く。
こういう時だけ機転の利く実験君は、ドライアーで微風の気流をつくる。
と、本能か?その気流の方へ歩むハエ。
それから1分後、さっきまで凍っていたはずのハエが、
ドライアーの微風も借り、真っ直ぐ不細工に…飛ぶ!
「おー!!」
声にならない声をあげる、二人。
10センチ飛んでは墜落…また、飛んでは墜落…するも、
頭をふり、
KnockOut寸前のボクサーのように立ち上がり、
また、飛ぶ!
ハエも、身体の血流が良くなったのか、
少しずつ飛行姿勢も安定。
ドライヤーを切る。
無風でも飛び出すハエ。
更に、気合いを入れたハエは、
今度は逆方向に飛び、運動神経の鈍い実験君の眉間にヒット!
さすがだぜ。
奴は覚えてたのだ!にっくき実験君のギョロ目を!!
飛行と墜落の繰り返しの中、
ハエはハエだけに、フライ!!
が、
実験君の好奇心は止まらない。
せっかく復活したハエをまた捕まえると、
またビニールに包み、2度目の仮死状態へ!
「明日の夜中、もう1度やろう」って、
実験君らしく不器用な笑顔…
カーテンの向こう側には、小鳥のさえずり。
6時から、お寺でラジオ体操だし、しばしの休息へ。
次の日の夜中….
またもや母ちゃんのドライアーで、ハエを温める…も…
奴は、もう、フライアウトしてしまったのだった!
ん….まさか、我輩も「共犯者」
心がチクリと痛い…
後日…
「セーフだよ!!アウトだよ!!」
と、僕らが野球している脇を通過する実験君。
なんだか、ブンブンうるさい。
よくみりゃ、ハエを生け捕りにし、器用に足に糸を巻き、
糸を割りばしにくくりつけ、「ハエ散歩」を楽しんでいた。
「哲っちゃんのお兄ちゃん、大丈夫??」
僕の顔を覗き込む、友達。
不思議な目で実験君の後ろ姿を追う友達の隣で、
「いやや、これが兄貴だよ!!」
と、心の中、誇らしげに微笑する、僕がいた。
あっ….母の麦茶事件は、いまだに内緒であーる….
…つづく….