実験君がゆく…(3)~ネコだまし?~

….1983年…..

夏休みもお盆に近づくと、実験君(兄)と1週間程、

同じ米沢市内にある、母の実家に泊まる。

それは、母方の親戚が、横浜や千葉、相模原から集まるからだ。
特に、従兄弟達と会えるのは年に1度位で、

朝起きてすぐ、かぶと虫獲りに行き、キャッチボールし、
スイカ割って、スモモもいで、アイスかじって、そして、夜は花火

ネズミ花火、パラシュート花火、ロケット花火、おばけ花火…
で、ラストは、
静やかに、今日という日を振り返るように、線香花火。

線香花火

 アルバムの思いでの1ページのように、
美しき光景が続くのだ….が….

実は、この母の実家には、クセ者がいる!
そいつは、猫の仮面を被った意地悪でいけすかない奴で、
名を「ミーミー」という。
 
ミーミーは、幼稚園時代の我が輩を、背中の毛を逆立て散々威嚇し、
我輩の心に、恐怖を植え付けたばかりか、
この前など、いきなりテーブルの上に跳び乗って、
ばば(祖母)にせがんで買ってもらった
飲みかけの「ラムネ」を倒す。

夏色にときめいたはずの希望は、泡と共に、床にはき出され、
夢に描いた美味は….ボロぞうきんに飲み干され、
排水溝へ旅立つ。

ラムネそのものが、指を突っ込んでも、
舌を伸ばし触れられても、取れない、
あの「ビー玉」そのものなのか….

ラムネ

それなのに、大人達….即ち、エサをくれそうな相手には
可愛い鳴き声で、疲れた大人達の心を、魅了しやがる。

気にくわん!!
実に、気にくわん!!

….楽しい時は、永遠ではなく….
従兄弟達は、それぞれ地元に帰る。
そんな、切ない朝に、事件はおきた!

なんと、一番年長の従兄弟が、「さよなら」を告げるため
ミーミーを抱っこしようとしたところ、
頬っぺたを引っ掛かれたのだ!

なのに….何事もなかったように、エサを食べ、
皿まで舐める、ミーミー….

 我輩は、心の中、思う。
嫌な猫だな!
第一名前がミーミーなんて、何でも自分の物だって、自分のものだって
勘違いしているんじゃないの?
何とも傲慢知己な名前だ!!

ほっぺにガーゼを貼り、手を振る従兄弟。
苦い思いが、我輩の胸に残る。


….お昼前….朝の事件も忘れたかのように、

このバカ猫は、腹がへったと、にゃーにゃー可愛い声を出し始めた。

その声を逃さず….兄こと実験君はやってきた。

「ん….」
何かおきる。いや、何かをおこすぞ、この男は….

そして、我輩は、廊下の奥から、この一部始終を目撃する。

お腹がすいて、甘えた声を出すミーミーに、
実験君は煮干しを小さく砕き、ミーミーの方に投げてやる。

待ってましたとばかりに、美味そうに横口で食らうバカ猫。
そして、今度は実験君よりに、小さく砕いた煮干しを置く。

面倒臭がりな猫だが、よほど腹がへったのか、
煮干しまで歩き、食らう。
次は、ミーミーから更に前方30センチに、煮干しを置く。
気にせず、そこまで歩き食べるミーミー。
そして、次は、ミーミーから1メートルほどの距離に。

と…ミーミーは突然、狂ったかのように、
煮干しへ跳びかかる!

(そう、実験君は、この煮干しからは、
軽くマタタビを振りかけたものを使用

が、
運動神経の良いはずのミーミーは、煮干しを捕らえられない!

実は、このマタタビを振りかけた煮干しには、紐がついているのだ!!

ミーミーが捕まえようとするたび、実験君が紐を手前に引き、空振り!
イラッとするミーミー!!

そして、また、同じ事を繰り返し、捕まえられず、
もう夢中になり、煮干しに食らいつく…が….

おそらくミーミーは、マタタビの匂いのする煮干しを生きた小魚と判断したのか、
何度も、飛びつく。

実験君は、次は、上へ紐を上げる。
と…ミーミーは??小魚が飛んでる?
と錯覚し、ムササビのように飛ぶ!!

それでも獲れない!
目が、野生モードに入ったかのように、気合いを入れ、更にダイブ!!

それでも獲れず….今度は、興味なさそうにしつつ、トライ!
でも、完全にミーミーの戦法を読んでる実験君は、
寸前で紐を引く!

そして、実験君は後ろ手でドアをあけ、
マタタビつきの煮干しを紐ごとコロコロ転がし、
外へ出る。

小魚が、廊下を泳ぎ、外へ出たと、勘違いしたミーミーは追いかける。
まるで、犯人を追う、刑事(デカ)のように。

実験君は、とにかくミーミーの攻撃をかわしつつ、
門の外….すなわち、道路へ!!

さかりのついた猫のように、狂い咲いた本能を打ち消せず、
ミーミーは、何度も、何度もトライ!

逃げる小魚….十字路を「右折」

 そして、道なりに後ろ歩きを繰り返し、
近所のおばちゃんの視線も気にもとめず、
実験君は「戦略」ブレズ、
行く。

我輩は、このゲームの続きをただただ知りたく、ミーミーの後ろを
追う。
そう、密かに追跡調査するCIAのように!

正直、ミーミーに戦術はなく、その「知力」「体力」も、
実験君には分析済み。

そして、
先ほどの十字路を曲がって、100メートル程直進したところで、
実験君は、あっさりと、紐から手を放した。

….実験君も、疲れたのかな?
いやぁ、さすがに心が傷んで、ミーミーへゲームのご褒美として、
煮干しを与えたのだよ….

無我夢中で、煮干しにしゃぶりつく、ミーミー….

心に咲いた花の名前は知らないけど、その美しさと香りに、
ときめきが納まりきらなくなった我輩のハートが、きゅんきゅんなり出した….
その時!!

我輩は、ミーミーが煮干しにむしゃぶりつく、その場所に気がつく!

犬小屋の前だ!!

と…
おっとり形で、毛がもじゃもじゃの老犬が、あくびたれて
犬小屋から出てくる。

「!……!…..!….!」
見つめあう、老犬と猫…..と、

「ぎゃー!!」
何故か、何故か、お互いあまりにもびっくりしたのか
逃げ出す、老犬と猫。
…ミーミー、お前が死んで四半世紀?
化けて出るなら、我輩にではなく、実験君こと、兄貴だよねぇ。

                   ~つづく~